この記事で分かること(3行要約)
- IRは、物質が赤外線を吸収する性質を使って、分子の結合や官能基に関する情報を調べる方法です。
- FTIRは赤外スペクトルを得る装置方式の一つで、フィルムや粉末、液体などを測定方法に合わせて調べられます。
- スペクトルが似ている物質や混合物では、IRだけで名称や含有量を確定できないことがあります。
機器名/略称: 赤外分光法(IR)/フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR、FT-IR)
何が測れるか: 分子振動に関係する赤外吸収のパターン、条件が整えば対象成分の定量指標
試料例: 樹脂フィルム、粉末、液体、コーティング、異物
測定結果の例: 波数(cm⁻¹)に対する透過率(%T)または吸光度(Abs)の赤外スペクトル
代表的な利用場面: 樹脂の材質推定、受入原料の照合、表面の異物や付着物の調査
1. どんな分析機器?
IR(赤外分光法)は、試料に赤外光を当てて、どの波数の光を吸収するかを調べる分析法です。分子の結合は振動しており、赤外光のエネルギーが振動に合うと吸収が起きます。その吸収の並び方が、物質の構造を考える手掛かりになります。
FTIRは、赤外スペクトルを測定する装置の方式です。IRは赤外分光法・赤外スペクトルを指す文脈で使われ、FTIRはフーリエ変換方式の赤外分光光度計・測定法を指すと考えると整理しやすくなります。FTIRでは干渉計を使って得た信号をフーリエ変換し、波数ごとのスペクトルに直します。根拠:JAIMA
品質管理では、既知原料のスペクトルと比較して、材質が想定したものかを判断する材料にします。未知物質の名前が必ず一度で分かる装置ではありません。
2. どんなときに使う?
製造現場では、原料樹脂の受入確認や、成形品の表面に付いた異物の材質推定に使われます。例えば似た外観の樹脂でも、赤外吸収パターンに違いがあれば、材質を絞り込む助けになります。
測りやすい試料は、使用する測定法で赤外光が適切に届き、十分な信号が得られる試料です。固体・液体・粉末に利用できますが、試料の厚みや表面状態、使用する付属装置によって条件が変わります。
注意したい試料は、複数材料が重なった積層品、微量の混合成分、表面が粗く接触が不十分な試料などです。膜厚が厚すぎる透過測定では吸収が強すぎて比較しにくくなることがあります。逆にATRでは測定する表層の影響が強く、内部全体の組成を代表しない場合があります。根拠:JAIMA
3. 分析には何が必要?
| 準備するもの | 役割・注意点 |
|---|---|
| FTIR本体と測定ソフト | 赤外光、干渉計、検出器を使い、スペクトルを取得・処理する |
| 試料と適切な測定付属品 | ATR、透過、反射、顕微測定など、試料形状と分析目的に合う方法を選ぶ |
| バックグラウンド測定 | 装置や空気中の水蒸気・二酸化炭素などの影響を補正する基準を得る |
| 測定面の清掃具・必要な前処理器具 | 汚れや試料の持ち込みを抑える。測定窓や結晶を傷つけない |
| 参照スペクトル・標準試料 | ライブラリ照合、定量用の校正、装置状態の確認に使う |
| 安全設備 | 薬品・粉じん・高温試料を扱う場合、SDSと使用設備の安全基準を守る |
ATRでは試料をATR結晶に適切に接触させます。一方、透過法では薄膜や液体セルなどを通過する光を測ります。同じ試料でも、測定方法が変わると結果の見え方は一致しません。根拠:島津製作所
4. どんな仕組みで分析する?
- FTIRの光源から赤外光を出します。
- 光は干渉計を通り、光路差の異なる光として合成されます。
- 透過法なら試料を通過した光、ATR法なら結晶内の全反射で生じるエバネッセント場と試料の相互作用により減衰した光を検出します。
- 検出されたインターフェログラムをフーリエ変換し、波数ごとの信号に変換します。
- 試料測定とバックグラウンド測定の関係から、透過率や吸光度などのスペクトルを表示します。

ATRはFTIRに組み合わせて使う測定法の一つです。ATRの名称だけで別の分光原理を指すわけではありません。赤外光が試料と相互作用する部分の仕組みが、透過法などと異なります。根拠:JAIMA
5. 分析すると何が分かる?
IRスペクトルでは、横軸に波数(cm⁻¹)、縦軸に吸光度(Abs)または透過率(%T)をとります。吸光度表示なら吸収の強い場所が上向き、透過率表示なら下向きのピークとして描かれることが一般的です。図の縦軸がどちらかを最初に確認しましょう。

| 見る場所 | 読み取れること | 注意点 |
|---|---|---|
| ピークの位置(波数) | 結合や官能基の候補を絞る | 一つのピークで分子全体の構造を断定しない |
| パターン全体 | 既知の参照試料と似ているかを比べる | 混合物ではピークが重なり、別物でも似る場合がある |
| ピークの強さ | 条件を一定にした定量・比較の手掛かり | 試料厚み、ATR接触、バックグラウンドなどで変化する |
| 新しいピーク・形状の変化 | 化学的な変化や混入物の存在を疑う材料 | 測定条件や水分などの影響を先に除外する |
定量では、目的の成分に対応したピークを選び、標準試料による検量線や測定条件の妥当性を確認します。ライブラリ検索の一致率だけで品質の合否を決めることはできません。
6. 何が分からない?苦手なことは?
FTIRは分子の結合に関する情報が得意ですが、すべての成分を一度に個別定量できるわけではありません。混合物の重なったピーク、微量成分、赤外吸収が弱い振動などは判別が難しい場合があります。構造異性体の区別にも補完的な分析が必要になることがあります。
ATRスペクトルを透過法のライブラリと比較する場合には、ピークの相対強度だけでなく、ピーク位置のわずかな違いも生じ得ます。測定法に合う参照スペクトルを使い、必要に応じてATR補正の条件を確認します。根拠:島津製作所FAQ(2026年9月更新)
樹脂の分子量分布が必要ならGPC/SEC、無機元素の種類と含有量が必要ならXRFやICPなどを検討します。IRスペクトルだけでは、それらを直接測定したことにはなりません。
7. 使用時の注意点と維持管理
- 測定前: 付属品が試料に適しているかを確認し、ATR結晶・窓材の汚れやキズを点検します。
- 測定中: バックグラウンドとの差、水蒸気・CO₂の影響、異常なベースライン、ピークの飽和を確認します。
- 接触・厚み: ATRは密着状態、透過法は試料の厚みや光路長が結果に影響します。同一試料でも条件をそろえて比較します。
- 測定後: 付属品・測定面を材質に適合する方法で清掃し、測定条件とデータ処理履歴を保存します。
- 安全: ATR結晶や測定窓材には傷つきやすい材質があります。清掃溶剤や薬品、粉末試料の取扱いは装置・付属品の説明書とSDSに従います。
消耗品・維持費は測定付属品、測定窓・セル、乾燥剤、定期点検などで変わります。装置仕様による違いが大きく、金額を一律には示せません。
8. 似た分析機器との違い
| 分析法・機器 | 主に得られる情報 | 使い分け |
|---|---|---|
| IR/FTIR | 赤外吸収による結合・官能基の手掛かり | 材質の照合や構造の推定に使う |
| ATR(FTIRの測定法) | 試料表層に由来する赤外吸収 | 厚めの固体・フィルム等を比較的少ない前処理で測りたい場合に有力 |
| ラマン分光 | 光の散乱から分子振動情報を得る | IRと相補的な場合があり、蛍光などの妨害も考慮する |
| GPC/SEC | 溶液中の高分子サイズと分子量分布の推定 | 樹脂の分子量分布が必要なときに選ぶ |
| GC-MS | GCで分離した成分の質量スペクトル | 揮発性成分の識別や不純物分析などに使う |
IR、ATR、FTIRは同じ階層の機器名ではありません。IRは分析法、FTIRは装置方式、ATRは測定方法です。目的を混同しないことが、測定法選定の出発点になります。
代表メーカー・現行機種
2026年10月30日に初回確認し、2026年10月31日に掲載機種名・メーカー公式URLを再照合しました。公式掲載は最新発売や現在の受注・在庫・販売継続を保証するものではありません。発売日と販売条件は未確認です。
| メーカー | 機種・構成例 | 掲載情報の位置付け | 公式URL | 公式掲載の限定確認日 |
|---|---|---|---|---|
| 島津製作所 | IRXross | 島津製作所の製品紹介ページとFTIR比較表への掲載を確認(2026-10-30)。発売日・販売条件・最新発売モデルかどうかは未確認 | メーカー公式ページ | 2026-10-30(限定確認) |
| 島津製作所 | IRSpirit-Xシリーズ | 公式掲載の機種例。発売日・現在の販売条件は未確認 | メーカー公式ページ | 2026-10-30(限定確認) |
参考文献・出典
- [出典1] https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/spectroscopy/ftir/
- [出典2] https://www.an.shimadzu.co.jp/service-support/technical-support/analysis-basics/ftir/fundamentals/data/ftirtalk-letter15-fourier/index.html
- [出典3] https://www.an.shimadzu.co.jp/service-support/technical-support/analysis-basics/ftir/fundamentals/method/ftirtalk-talk2-intro/index.html
- [出典4] https://faq.an.shimadzu.co.jp/faq/show/12230?site_domain=default
- [出典5] https://www.an.shimadzu.co.jp/products/molecular-spectroscopy/ftir/ftir-spectroscopy/irxross/index.html
- [追加出典A(2026-10-30確認)] 島津製作所 FTIR製品比較表
- [出典6] https://www.an.shimadzu.co.jp/products/molecular-spectroscopy/ftir/ftir-spectroscopy/irspirit-x/index.html
関連機器
測定の基本や試料に合う方法を選ぶ際は、初めての分析機器ガイドと試料から分析方法を探すガイドを参考にしてください。
- GPC/SEC — 高分子の分子量分布を調べる手法
- GC-MS — 揮発性成分の分離と質量分析
- SEM(走査電子顕微鏡) — 微細な表面形態の観察

